4th. TONDEMO

第4回

相殺の抗弁は無視してよい!?

2023年 1月16日 判決

担当裁判官:
髙橋彩裁判官(裁判長)
細川八重裁判官、渡邉聖人裁判官

仙台地方裁判所・第3民事部
令和4年(レ)第41号・贈与契約金請求控訴事件

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Male Judge Character
ABOUT

第4回 事案の概要

  • 1.

     原告(兄)と被告(弟)は、2005(平成17)年12月、被告が母名義の不動産を取得する代わりに、被告が原告に対して、分割して合計600万円を贈与する契約を締結しました。贈与金は、2005(平成17)から2010(平成22)年までは毎年12月末日限り50万円ずつ支払い、2011(平成23)年には、12月末日限り、残金300万円を一括して支払うことになりました。
     上記贈与金契約に先立つ2003(平成15)年1月、原告が弁護士に依頼して自己破産をするにあたって、被告が弁護士費用32万5000円を立て替えたため、被告は、上記の2011(平成23)年12月末日限り支払う予定だった贈与金300万円から、立て替えた弁護士費用32万5000円を差し引き、267万7500円を原告に振り込みました。

  • 2.

     原告は、被告が弁護士費用32万5000円を差し引いたことを不服として、2021年11月、仙台簡易裁判所に32万5000円の支払いを求めて、被告に対し、贈与契約金請求訴訟を提起しました。なお、第1審は、原告も、被告も、弁護士に依頼しない、本人訴訟でした。
     仙台簡裁は、被告名義の領収書がある19万9500円については、被告の立替金債権が存在することを認定しつつ、贈与契約をする際に、立替金を控除しなかったのは不自然であるなどと述べて、なぜか32万5000円全額について認容する判決をしました。(その論理はよく理解できません。1審判決文をご参照ください。)

  • 3.

     この1審判決に対し、被告は、立替金による相殺を主張し、贈与金の支払い義務を争って控訴しました。
     控訴審判決は、1審判決と同様、被告(控訴人)名義の領収書がある19万9500円については、被告(控訴人)の立替金債権が存在することを認定しつつ、「被告(控訴人)が合意相殺だけを主張している」と主張整理し、合意相殺の合意が認定できないという理由で、被告(控訴人)の控訴を棄却しました。

POINT

第4回 判決の問題点

①相殺の抗弁についての判断の遺脱

  • 1.

     「判断の遺脱」とは、判決に影響を及ぼす重要な事項についての判断が判決理由から抜け落ちている場合を言います。これは、上告理由や再審事由となるとされており、判断の遺脱があれば、その判決は当然に違法になります。
     被告(控訴人)が主張する相殺の抗弁が認められれば、判決の内容は変わってきますので、相殺の抗弁について判断しなければ、「判断の遺脱」として、その判決は違法になります。
     本件において、被告(控訴人)が相殺の抗弁を主張していることが明らかであるにもかかわらず、控訴審判決は、「被告(控訴人)が合意相殺だけを主張している」と主張整理して、合意相殺の可否だけを判断し、通常の相殺の抗弁については判断しませんでした。

  • 2.

     本件の控訴審判決が、「被告(控訴人)が合意相殺だけを主張している」と主張整理した理由は、被告が、1審の答弁書において、「平成23年12月に26750000円を振り込む前に電話で、原告が自己破産した際の弁護士費用325000円を被告が立て替えたため、その分を差し引くことに原告の了解を得て、振込んだ。」と記載していることにあると思われます。
     しかし、この文中に「合意相殺」という文言はなく、通常の判断能力を有する者がこの文章を読めば、通常の相殺を主張していることは明らかであり、合意相殺を主張していると解釈するのは困難です。

  • 3.

     また、合意相殺を主張するメリットがあるのは、法令上相殺が禁止されるなど、通常の相殺が制限される場合に限られており、そのような制限がない場合にわざわざ合意相殺を主張するメリットは存在しません。とくに、本件のように、合意相殺を基礎づける客観的証拠が存在しない場合に、「合意相殺だけを主張する」という事態は常識的に考えられません。

  • 4.

     さらに、1審判決文でも、「合意相殺」という文言は使われておらず、「被告の主張」として摘示されているのは、「被告は、平成23年12月に267万50000円を振り込む際に、電話で原告に連絡して、上記金額(弁護士費用のこと)を差し引く旨を伝え、原告の了解を得た上で振り込んだ。」というものであり、合意相殺ではなく、通常の相殺を主張していることは明らかです。

  • 5.

     したがって、被告(控訴人)が上記答弁書で主張しているのは、合意相殺ではなく、一方的意思表示による通常の相殺であり、「原告の了解を得て、振込んだ。」という部分は単なる事情として記載されていることは明らかです。この点は、控訴審において、被告(控訴人)が提出した控訴理由書でも、合意相殺にはまったく触れず、もっぱら通常の相殺の可否だけを主張していることからも裏付けられます。

  • 6.

     控訴審判決が、「被告(控訴人)が合意相殺(だけ)を主張している」と主張整理したのは、1審の被告(控訴人)本人の答弁書の記載につき、そのように読もうと思えば読めないことはない、という程度です。

  • 7.

     このように、控訴審判決が、合意相殺の可否だけを判断し、通常の相殺について判断していないことは、判断の遺脱であり、理由不備にあたる(民訴法312条2項6号)という主張を中心に、被告(控訴人)は、仙台高裁に上告しました。
     なお、最高裁平成27年12月14日判決(民集69巻8号2295頁)は、原判決が相殺の抗弁について判断しなかった事案において、理由の不備があるとして原判決を破棄し、事件を差し戻しており、相殺の抗弁について判断しなかったという判断の遺脱が上告理由となることは明らかです。

②釈明義務違反

  • 1.

     民訴法149条は、当事者の主張・立証に不明瞭な点がある場合に、裁判所が質問をしたり、立証を促すことができるという「釈明権」を認めていますが、一定の場合は、釈明権を行使することは裁判所の義務であり、この釈明義務に違反した場合は違法になると解されています。

  • 2.

     本件では、上記のとおり、控訴人が合意相殺を主張しているとは通常は考えられないので、もし控訴審裁判所がそのような解釈をしたのであれば、「通常の相殺の抗弁を主張していないのかどうか」という点を控訴人に対して質問をしなければならず、このような質問をしなかったことは釈明義務違反になると考えられます。

③唯一の証拠方法の却下

  •  民事訴訟では、争点に対する唯一の証拠方法については却下してはならず、これを却下した場合は違法になるとされています。
     被告(控訴人)は、控訴審で、被告(控訴人)本人の尋問を申請する意向を示しましたが、控訴審裁判所はこれを認めず、強引に結審しました。
     しかし、控訴審裁判所が、「被告(控訴人)が合意相殺だけを主張している」と解釈したのであれば、被告(控訴人)の本人尋問は唯一の証拠方法になるので、これを採用しないことは許されません。
     このような唯一の証拠方法を採用しなかった点でも、本件控訴審裁判所には問題があったと考えられます。

総合トンデモ判決度 Ave. Tondemo Ratings 5.00!!!
5/5
COMMENTS

第4回 会員コメント

仙台弁護士会所属の弁護士有志による考察

Asset 12@500x
トンデモ判決度
5/5

A会員

 この判決は、当事者の意思や手続保障を無視して、とにかく事件を処理すればよいという最近の裁判所の姿勢を如実に表したまさにトンデモ判決です。もし、裁判所が、「被告(控訴人)が、通常の相殺を主張せず、合意相殺だけを主張しているかもしれない」などという常識的には極めて考えにくい事態を想定したのであれば、この点を求釈明すべきであり、このような求釈明もせずに、当事者がまったく想定していない合意相殺の可否だけを判断したのは、完全に不意打ちです。まったく常識外れのトンデモ判決なので、★5が相当です。なお、この裁判体は、本件に限らず、目を疑うようなトンデモ判決を連発しており、後でこの裁判体による別のトンデモ判決をご紹介することになりそうです。

Asset 2@500x
トンデモ判決度
5/5

B会員

 民事訴訟の原則として、「弁論主義」があります。これは訴訟における主張や証拠の提出を当事者の責任と権限とする原則であり、法律を学ぶものであれば誰しもが前提とする原則です。
 この判決は当事者の主張や証拠関係を無視して、自らが考える主張に沿って整理した結果、合意相殺のみを争点として判断をしていますので、弁論主義を逸脱する虞があるものです。
 当事者にとって不意打ちになるだけではなく、「紛争の解決」という機能すら放棄しかねない問題のある判決だと思います。

Asset 9@500x
トンデモ判決度
5/5

C会員

 本件判決は、裁判所の釈明義務(民訴法第149条1項)に反する違法な判決と思います。
被告が一審の答弁書において、「…弁護士費用32万5000円を被告が立て替えたため、その分を差し引くことに原告の了解を得て振り込んだ。」と記載している点については、少なくとも、通常の「相殺」をする意思は認められると解釈できます。被告の意思が不明確であれば、裁判所は求釈明をすればいいのであり、それすらしないで合意相殺だけを主張していると認定したのは、釈明義務違反にあたると考えられます。
 上田徹一郎著「民事訴訟法」によると、釈明権は、弁論主義の補充・修正のために設けられた規定であるから、釈明「権」であると同時に釈明「義務」でもあると記載してあります。
 これを本件判決に当てはめれば、上記被告の答弁書の主張について、合意相殺だけを主張していると主張整理した本件控訴審判決は、まさしく釈明義務に反していると思います。

Asset 13@500x
トンデモ判決度
5/5

D会員

 控訴において被告が「合意相殺」などという特殊な主張をしておらず、単に通常の相殺を主張している以上、そもそも弁論主義違反という違法な判決です。
そのうえで、控訴裁判所としては、被告の意思が仮に不明確である場合には、釈明義務として当事者の主張を正確に把握すべきであったと思いますので、釈明義務違反でもあると考えます。
 近日の裁判所の「とりあえず事案処理だけをすればいい」という対応を如実に表す判決であると思いますし、このような「雑な」裁判がされるようでは、到底国民の権利など守られるはずもなく、非常に憂慮すべき内容だと思います。