3rd. TONDEMO

第3回

10年間海外で別居しても財産分与は半々!?

2022年 11月8日 判決

担当裁判官:
桑原眞貴裁判官

仙台家庭裁判所
令和2年(家ホ)第24号・離婚等請求事件

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第3回 事案の概要

  • 1.

     原告(妻)と被告(夫)は、1997年婚姻し、1998年長女をもうけました。被告は国立大学の理学部大学院を修了するなどしたのち、国内トップクラスの電機メーカー等で半導体技術等の研究を続け、2005年、韓国のトップクラスの電機メーカーにヘッドハンティングされ、原告と長女とともに韓国に移住しました。

     被告は、外国人エンジニアとしてはトップクラスの年俸1600万円で迎えられ、その後別の会社に転職するなどしながらも、2018年に韓国企業を退社して日本に帰国するまで同程度の年俸を13年間にわたって維持しました。なお、2005年当時の韓国における平均収入は、日本の6割程度だったので、これを踏まえると、韓国において支払われた1600万円は、日本に置き換えると3000万円近い価値があるものです。しかも、渡韓した2005年当時、被告はまだ30代という若さでした。

  • 2.

     2008年、原告は長女を連れて日本に帰国してしまい、それ以降、原告と被告はめったに連絡を取り合わず、基本的には被告が原告に生活費を送金するだけの状況が続きました。もっとも、その間も、被告は年に数日程度だけ日本に帰国して、原告らと自宅で一緒に過ごしたりする状態が2016年ころまで続きましたが、2017年に長女が進学のため自宅を出てしまった後は、被告はまったく自宅に戻ることはなくなりました。そして、2018年5月には、被告は韓国企業を退職したことも、連絡先や新しい住所も一切原告に告げずに、日本に帰国しました。

     その後、被告が帰国したことを知った原告は、被告と一度も連絡を取ることもなく、離婚調停申立てを弁護士に依頼しました。

  • 3.

     以上のような事実関係で、本件訴訟では、原告が被告に対し、離婚とともに財産分与を求めました。離婚については争いがないため、財産分与が問題となりました。財産分与についての争点は、大きく2つあり、①財産分与の基準時につき、2008年に原告と長女が日本に帰国した時点か(被告が主張)、2018年に被告が日本に帰国した時点か(原告が主張)という点と、②仮に財産分与の基準時を2018年とした場合、財産分与の寄与割合は半々か(原告が主張)、それとも寄与割合を被告に有利に変更すべきか(被告が主張)という点です。

  • 4.

     ①財産分与の基準時については、被告は、2008年に原告と長女が日本に帰国した時点で婚姻関係が破綻しており、この時点を基準時とすべきと主張しました。

     これに対し、裁判所は、「原告と被告は、平成20年6月6日、原告が長女を連れて日本に帰国して以降、別居して生活しているが、被告は長期休暇などを利用して日本に帰国して原告及び長女と過ごすことがあり、平成29年4月までは原告に生活費などとして継続的に送金をしており、原告は長女が中学校に入学したころから働いているが、被告からの送金で生活費や長女の学費を賄い、原告及び被告名義の保険料の支払をしていたと認められる。かかる経緯を踏まえると、平成20年6月6日に原告が帰国した時点において、原告と被告の共有財産形成に向けた経済的協力関係が終了したとは認められず、被告が日本に帰国したにもかかわらず原告と別居するに至った平成30年5月1日(本件基準時)をもって、経済的協力関係が終了したとみるべきである。」などと述べて、2018年に被告が帰国した時点が基準時であると判断しました(18頁)。

     しかし、被告が「長期休暇などを利用して日本に帰国して原告及び長女と過ごすこと」は、経済的協力関係とは何の関係もないと考えられます。

     また、被告が継続的に生活費を送金していたとしても、それがなぜ経済的協力関係が存続していた根拠となるのかも不明です。

  • 5.

     ②仮に財産分与の基準時を2018年とした場合でも、財産分与の寄与割合については、被告は韓国において30代の若さで1600万円もの年俸を得ており、その後13年も同程度の年俸を得ていたのは、被告の特別の努力や才能によるものだし、その間、原告は日本に帰国してしまい、まったく被告の財産の維持・増殖に寄与していないのだから、少なくとも寄与割合は被告に有利に変更すべきと主張しました。

     これに対し、裁判所は、「たとえば、高額所得者や特殊な才能や技能を有する場合に限って、寄与度を変更することはありうるが、本件における被告の年収の金額や、被告が相応の収入を得ていたのは企業内での開発・研究に従事したからであって、あくまで社員として年収を得ていたことなど本件に顕れた事情に鑑みると、特殊な才能や技能を有する場合に当たるとまではいい難く、被告の寄与度を変更すべき特段の事情は認められない。」などと述べて、寄与割合は半々と判断しました(29頁)。

     しかし、裁判所の判断では、日本と韓国の収入格差や被告の年齢等について考慮した形跡が認められないだけでなく、なぜ企業内での開発・研究に従事した場合には、特殊な才能や技能を有する場合には当たらないと言えるのかまったく不明です。寄与割合を変更した他の事例では、夫が会社員だった場合もあります(大阪高判平成12年3月8日・判時1744号91頁など)

  • 6.

     このように、仙台家庭裁判所の判断には納得がいかない点が多いため、被告は控訴しました。(原告も控訴中)

総合トンデモ判決度 Ave. Tondemo Ratings 4.75!!!
4.5/5
COMMENTS

第3回 会員コメント

仙台弁護士会所属の弁護士有志による考察

Asset 12@500x
トンデモ判決度
4/5

A会員

 この判決の理屈だと、2016年ころまで平穏に推移していた夫婦関係が、2017年ころ突如悪化し、その後夫が居場所も告げずにひそかに帰国したことになりますが、別居後、夫婦がほとんど連絡を取っておらず、年に数日しかあっていなかったことを踏まえると、そのようなことは常識的に考えられません。実際は、原告らが日本に戻った後、被告が年に数日自宅に戻っていたのは、長女と会うためだけなので、すでに夫婦関係は破綻しており、その間、経済的協力関係など存在しなかったことは明らかだと思います。

 また、30代で1600万円もの年収を13年間にわたって得るのは日本でも難しいと考えられるところ、韓国でこのような収入を得るのは特別の努力や才能がなければ非常に難しいというのは明らかだと思います。また、この判決は、このような事情を無視して、長年同居をしていた夫婦とまったく同じ処理をしていますが、このような結論があまりに常識外れなのは明らかです。本来であれば★5でもよいと思いますが、担当裁判官がまだ経験が浅いことを考慮して、星をひとつ減らして★4としました。

Asset 2@500x
トンデモ判決度
5/5

B会員

 分与対象財産の確定の基準日の判断内容はもとより、一方で平成20年6月6日に「原告が帰国した時点及び帰国後しばらくの間は、夫婦関係が悪化していたとは認められず」と「しばらく」後は夫婦関係が悪化したかの認定をしておきながら、他方で婚姻関係破綻の時期を平成30年5月1日とし、約10年間もの間の夫婦関係の状態が全く意味不明な認定を行うなど、無理な理屈のオンパレード判決です。

 このような判断を行うのも、結局は妻である原告に有利な結論を導くためとしか考えられません。男尊女卑ならぬ女尊男卑の、不公平極まりないトンデモ判決です。

Asset 9@500x
トンデモ判決度
5/5

C会員

 一言でいうならば、「最初から妻(女性)側を勝たせるとの結論ありきの判決」。この夫婦関係の実態や特殊な事情について一切無視している内容の判決であり、「トンデモ」度は非常に高いと思います。これが妻と夫が逆の立場であれば、全く違った判断がされる可能性が十分あったでしょう。男女平等とは程遠い判決であり、公正・公平な裁判とは到底言えないのではないでしょうか。

Asset 13@500x
トンデモ判決度
5/5

D会員

  • 1.

     財産分与の基準時については、夫婦の共有財産形成に向けた経済的協力関係が終了したか否かの視点により決すべきである。
     ところで、別居を経て離婚に至ったケースにおける財産分与の基準時としては、原則として別居時と考えるべきである。何故なら、別居した夫婦は、特段の事情がない限り、それぞれ別々の経済生活を営んでいるため、共有財産の形成に寄与・貢献するということはあり得ないと考えられるからである。

  • 2.

     本件においては、平成20年2月に、それまで原告が被告の収入を管理していたのを被告自ら管理するようになっており、その4ヶ月後に原告と被告が別居したことと併せて考えると、平成20年6月6日の別居時に、原告と被告の経済的協力関係が終了したことの1つの根拠と考えるのが自然である。
     さらに、平成20年6月6日、原告が長女(当時9歳11ヶ月)を連れて帰国した理由について原判決は何も述べていないが、普通に考えれば、原告と被告の夫婦関係が実質的に破綻していたこと以外に外の理由は考えられない。この点、被告は、原告と被告は、原告が平成20年6月6日に日本に帰国する以前に家庭内別居状態が続いており、既に婚姻関係は破綻していたのであって、同日に別居して以降、婚姻関係は形骸化していたと主張するが、別居に関する原告と被告の主張を比較すると、被告の主張が実態を正確に述べていると評価することができる。

  • 3.

     原判決は、以上の事実関係の下においても、「平成20年6月6日以降、原告が長女を連れて日本に帰国して以降も、被告は長期休暇などを利用して日本に帰国して原告及び長女と過ごすことがあり、平成29年4月までは原告に生活費などとして継続的に送金をしており、原告は長女が中学校に入学したころから働いているが、被告からの送金で生活費や長女の学費を賄い、原告及び被告名義の保険料の支払をしていたと認められることから、平成20年6月6日に原告が帰国した時点において、原告と被告の共有財産形成に向けた協力関係が終了したとは認めれず、被告が日本に帰国したにもかかわらず原告と別居するに至った平成30年5月1日をもって、経済的協力関係が終了したとみるべきである。」と述べる(18頁)。
     しかし、被告が別居後も長期休暇などを利用して日本に帰国して原告及び長女と過ごしたりしたことは、夫婦の経済的協力関係とは無関係であるし、被告が原告に送金を続けた行為は婚姻費用の支払とみることができるのであるから、これらの事情をもって、原告と被告間において夫婦の共有財産形成に向けた経済的協力関係が係属していたと評価することは出来ない。

  • 4.

     以上よりみて、原告と被告の別居時以降、夫婦の共有財産形成に向けた経済的協力関係を認めるべき特別の事情がない以上、原則どおり、平成20年6月6日の別居時を財産分与の基準時とすべきである。
    したがって、これと異なる判断をしている原判決は、事実関係の評価を誤った判決であり、その意味で「トンデモ判決」といえる。